【羊の木】信じるか、疑うか。素性の知れない男女…… 彼らは全員元殺人犯。心揺さぶる衝撃と希望のヒューマン・サスペンス!【映画レビュー】
2018年2月3日公開
原作は講談社のイブニングで連載されてた漫画です。
2018年2月3日公開。全国213スクリーンで公開され、2018年2月3、4日の初日2日間で興収1億2,914万7,000円、動員9万5,478人になり、映画観客動員ランキング(興行通信社調べ)で初登場第2位となった。
映画では、街に移住してくる元受刑者が「6人の元殺人犯」になる等、設定が原作とは大幅に変更された。
あらすじ
寂れた港町・魚深市に移住してきた互いに見知らぬ6人の男女。
市役所職員の月末は、彼らの受け入れを命じられた。
一見普通にみえる彼らは、何かがおかしい。
やがて月末は事実を知る。
「彼らは全員、元殺人犯」
それは、受刑者を仮釈放させ過疎化が進む町で受け入れる、極秘の国家プロジェクトだった。
ある日、港で発生した死亡事故をきっかけに、月末の同級生・文(あや)をも巻き込み、小さな町の日常の歯車は、少しずつ狂い始める…
映画を見て
観終わった後の感想としては「観にきてよかったな…」と率直に思いました。
まず過疎化の進む寂れた港町の雰囲気が素晴らしいです。
田舎町での日常がとても詳細に描かれる事により作品にリアリティが出ていました。
ただし決して「明るく、のんびり」な良いところだけクローズアップした描き方でなく、過疎化している町ならではでの無気力感や町民同士の距離の近さ、悪い意味でプライベートの無さなどもしっかりと表現されていました。
そして俳優陣の素晴らしい妙演。
6人の受け入れ担当になった市役所職員の月末(錦戸亮)を中心に話は展開していくのですが、元殺人犯たちや町民の面々、すべての登場人物が個性的であります。
その役柄を俳優陣が見事に演じきっている為、物語にグッと引き込まれていきます。
登場人物
月末一
錦戸亮演じる地元の田舎町の市役所で勤務しながら父親の介護をする青年。
6人の元殺人犯の受け入れ担当になり、不安や疑いの中で少しずつ日常が壊れていく様をとてもよく演じてました。
ジャニーズタレントはあまり詳しくないのですが、アイドルなのでやはり俳優としては…。というイメージでしたが、平凡な役所勤めの田舎町の好青年を完璧に演じておりました。
岡田准一や今作の錦戸亮など目を見張る様な良い演技をする俳優もおり、最近は見る目が変わってきました。
宮越一郎
松田龍平演じる元殺人犯。
過剰防衛による殺人であるが、何かがおかしい。
大人しく好青年、友情に熱くイケメン。
しかし何かがおかしい…その違和感は徐々に核心に…
杉山勝志
北村一輝演じる元殺人犯。
傷害致死にて殺人を犯している。
明らかにチンピラ臭が漂い、仮出所してきた現在でもまだまだ悪い事しそうな雰囲気です。
最初の殺人が起こった時真っ先に疑われますが、果たして杉山が犯人なのか…?
太田理江子
優香演じる元殺人犯。
夫からSEXの最中に首を絞めることを強要され、そのまま殺害してしまう。
男性依存症的な性格であり、妖艶でセクシー。
優香と言えば可愛いグラビア女優のイメージでしたが、歳を重ねよい女優さんになりました。
大野克美
田中泯演じる元殺人犯。
チンピラっぽい杉山とは違い本物の極道。
敵対の組長を殺害しているが、仮出所を機に極道から足を洗い余生をまっとうに生きていきたいと思っているが、その滲み出る迫力は隠しきれない。
渋いいぶし銀な俳優さんです。
栗本清美
市川実日子演じる元殺人犯。
酒乱の夫から毎日DVを受けており、ついに一升瓶で殴り殺してしまう。
また自分は人を殺してしまうのか?と自らに怯えている。
独特の演技をする女優さん、シンゴジラの「尾頭ヒロミ」役といい、この人にしか演じられない役柄は多いと思います。
福元宏喜
水澤紳吾演じる元殺人犯。
普段は小心者で気の弱い男だが、酒を飲むと豹変するいわゆる酒乱である。
酔うと別人の様に気性が荒くなり暴力的になるところを見ると、殺人の罪にも飲酒が関わっているかと想像に容易いが劇中で詳細は語られない。
殺人犯である事が町民にバレるのを酷く恐れている情緒不安定な役柄を繊細に演じております。
石田文
木村文乃演じる魚深市に帰郷してきた月末の同級生。
勝気でさっぱりした性格だが、実は都会で不倫に疲れ果て故郷であるこの町に帰ってきた。
月末の学生時代の想い人であり趣味でやっていたバンドのメンバー。
移住してきた宮越一郎(元殺人犯だとは知らない)と深い仲になる。
綺麗な女優さんです、男勝りな文を体当たりで演じてました。
描かれる人の温かさ
6人の元殺人犯たちは一括りにはできず人柄は多種多様です。
市の斡旋で6人はそれぞれ職に付くのですが、その店主との関係が彼らを救う事になるパターンもありました。
雨森と福元 の場合
理髪店で務める福元は、とあるきっかけで店主「雨森」に殺人犯とバレてしまいます。
今まで良くしてくれた事にお礼を言い、泣きながら店を去ろうとする福元に雨森は自分も過去に犯罪者であった事を明かします。
そして「人が更生する為にはまず居場所がある事が大切なんだ、重要なんだ」と福元を元殺人犯と知りつつも引き続き受け入れるシーンは感動的でした。
内藤と大野の場合
クリーニング店で務める大野は、真面目に働くがその不器用な性格の為、女店主「内藤」には「あんた要領が悪いわね!」といつも怒られている。
しかし口数が少ない大野を他の客が「怖い」などと悪く言うと「あんたに大野の何がわかるのよ?」とイラッとする内藤は実は良い人だ(笑)
最後に自分の過去を打ち明け、自分が居ると内藤に迷惑がかかるからとクリーニング店を去ろうとする大野に「私はあなたを悪い人と思ったことは一度もない、周りの人はそういうけど私の気持ちは?」と引き止めるシーンは泣いてしまいました。
きっとこの内藤の元なら大野はしっかりと社会復帰できるだろうと確信しました。
亮介と太田の場合
介護センターで務める太田は、病気療養でセンターに通っている月末の父親「亮介」と親密な関係になってしまいます。
彼女を元殺人犯と知っている月末に父親と別れるように言われる太田は「わたしはもう人を好きになってはいけないのですか?」と問う。
その後自分の過去の罪を亮介に告白し、それでも太田を受け入れる亮介の姿を見て月末はこういう愛の形も有りかと思うようになってゆく…
自分の生き様を貫く
人の優しさに触れ、更生して生きていけそうな3人とは少し違う元殺人犯も描かれています。
自分の生き方に忠実な者もいれば、悩み戸惑う人もいます。
栗本の孤独と不安
清掃員として働く栗本は、仕事をして一人暮らしのアパートに帰宅してご飯を食べるという生活を繰り返すだけの毎日を過ごしています。
酒乱の夫から逃れる為殺した罪である彼女は本当は優しい人間であると思えます。
この長閑な港町で少しずつ心を癒していって欲しいです。
杉山の悪巧み
釣り船屋で働く杉山は、この何もない町で10年も暮らすのは詰まらないと麻薬の売買など様々な悪事を考えます。
最終的に宮越を殺人犯だと言う事をバラさない代わりに悪事を一緒にやろうと誘った直後、車で轢き殺される。
ある意味わかりやすい純粋なワルだったのかな。
不思議と嫌悪感は湧きませんでした。
宮越の無感情な殺人
宅配業者で働く宮越は、好青年であり月末と年代が近いこともあり、市役所職員と元殺人犯の移住民という関係からすぐに友達のような関係になっていきます。
爽やかな性格の裏側では、邪魔になれば無感情に何の迷いもなく人を殺す本性を持っていてそのギャップに恐ろしさを覚えます。
しかし反面、月末に対する友情は本物のようにも感じられ狂気の奥底に見える純真さが魅力です。
これは松田龍平の演技が素晴らしいと言う他ありません。
総評
最後になりますが、サスペンス・ヒューマンドラマとも言える今作は観ていて最後まで飽きる事のない良作だと思います。
今回原作とは設定、登場人物などを大幅に変更しての映画化となったそうです。
原作を読んでないので何とも言えませんが映画単体での感想はまぁ成功の部類に入ると思います
のろろ祭とのろろ様のくだりはシュールすぎな気がしますが(笑)
しかしラストはこれと言ってハッピーエンドという訳でもなく、バッドエンドでもなく視聴者に多少の後味の悪さを与え終幕となります。
特に劇場で観ることも無い作品かもしれませんが、暇な週末の夜などに自宅でお酒を片手に観るにはお勧めできます。
鑑賞後、自分なりの考察をする事が好きな方には好まれるのでは無いでしょうか。
そういう筆者もこうして感想を綴るうちに新しく気づく事が多々あった映画です。
万人にお勧めできる訳では無いですが、観てよかったと思えてもいる、そんな不思議な作品でした。
今回は『羊の木』の紹介でした。