【ラストレター】まだ読めずにいる“最後の手紙”に込められた、初恋の記憶──。ふたつの世代が交わる時、美しくも儚い物語が動き出す。【映画レビュー】

 

『ラストレター』が2020年1月17日より公開となりました。

岩井俊二監督の最新作である本作は、松たか子、広瀬すず、福山雅治、神木隆之介ら豪華キャストに加え『天気の子』でヒロインの声を務めた森七菜や『新世紀エヴァンゲリオン』などで知られる庵野秀明なども出演しており話題となっている。

 

監督・原作・脚本・編集:岩井俊二

 

ラストレター

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『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(93)、『スワロウテイル』(95)などの代表作を経てその独特な映像美から「岩井美学」などと呼ばれる世界観で人気の岩井俊二の監督作品。

20年以上ものキャリアの中で、巧みにその時代を切り取りながら様々な愛の形を表現し、いずれの作品でも熱狂的なファンを生み出してきた岩井俊二が、初めて自身の故郷である宮城県を舞台として手紙の行き違いをきっかけに始まったふたつの世代の男女と、それぞれの心の再生と成長とを描く物語。

 

これは、未だに読めずにいる“最後の手紙”に込められた初恋の記録──。

 

ストーリー


映画『「ラストレター」』予告【2020年1月17日(金)公開】

 

裕里(松たか子)の姉の未咲が亡くなった。裕里は葬儀の席で未咲の面差しにそっくりの娘・鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内と、未咲が鮎美に遺した手紙の存在を告げられる。

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未咲の死を知らせるために訪れた同窓会で、学校のヒロインだった未咲と勘違いされてしまう裕理。しかも、帰り道では裕里の初恋の相手・鏡史郎(福山雅治)と再開することに。

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勘違いから始まった裕理と鏡史郎の不思議な文通。裕理は未咲のふりをして手紙を書き続けるが、ある日鏡史郎からの手紙が鮎美に届いてしまう。その手紙には鏡史郎(回想・神木隆之介)と未咲(回想・広瀬すず)、そして裕理(回想・森七奈)の学生時代の淡い初恋の思い出が綴られていた。

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彼らを繋いだ手紙は、未咲の死の真相、過去と現在、さらには心に蓋をして留めていた思いを、時を超えて動かしていく──。

 

登場人物

岸辺野裕理:松たか子

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遠野未咲の妹で、夫・宗二郎と、娘・颯香、息子・瑛斗と余人暮らしをしている主婦。

 

遠野鮎美/遠野未咲(回想):広瀬すず

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遠野鮎美

母親である未咲が亡くなり、祖父母の過ごす未咲と裕理の実家に身を寄せている。

遠野未咲(回想)

裕理の姉。学校のヒロイン的存在だった。

 

岸辺野颯香/遠野裕理(回想):森七菜

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岸辺野颯香

裕理の娘。夏休みの間、あゆみと共に祖父母の家で過ごすことに決める。

遠野裕理(回想)

未咲の妹。乙坂鏡史郎に密かに想いを寄せる。

 

乙坂鏡史郎:福山雅治

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小説家として活動するも、デビュー作以降全く書けていない。

 

乙坂鏡史郎(回想):神木隆之介

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裕理・未咲の高校に転入してきた転校生。未咲に一目惚れする。

 

阿藤陽市:豊川悦司

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未咲の元恋人。

 

岸辺野宗次郎:庵野秀明

 

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裕理の夫。漫画家。同窓会以降裕理と鏡史郎の浮気を疑っている。

 

サカエ:中山美穂

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 阿藤陽市の同居人。

 

感想

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松たか子が演じる裕理は二児の母として、毎日の生活に追われる主婦。

姉の死と初恋の人との再開で、少しだけ日常から解き放たれて少女時代の自分に戻る女性を熱演している。

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福山雅治の売れない小説家の哀愁、20年以上1人の女性に心を囚われ続けている感情などの切ない心情を見事に表現しており深く感情移入できた。

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その福山の演じる乙坂鏡史郎の高校時代を演じる神木隆之介。現在の乙坂鏡史郎ととてもリンクしていて全く違和感がないのに驚いた。

福山が寄せたのか、神木が意識したのか、はたまた両者で話し合って融合していったのか。それは分からないが本当に乙坂の少年時代・中年時代を同一人物が演じているかと思えるほどの熱演だった。

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広瀬すず、森七菜も思春期の女の子の繊細な心を上手くナチュラルに表現できていたと思う。

森七菜は『天気の子』で2,000人以上のオーディションを勝ち抜いてヒロイン天野陽菜役に抜擢された女優であり、今作もオファーではなくオーディションでこの役を勝ち取っている。

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プロデューサーである川村元気は「私は15歳の時の広瀬すずに会っていますが、それ以来の素晴らしい才能です」と絶賛している。

筆者は広瀬すずのファンであるが、その広瀬との共演でも霞むことのない存在感と可愛らしさを放っておりこれからが楽しみな女優さんである。

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豊川悦司の演じる阿藤陽市。

本当に数分しか登場しないのだが、その少ない台詞に重みがありすぎて震える。

あの自分語りとも取れる台詞は、思うように人生を送れなかった壮年男性の心の叫びであり観ている観客の心をえぐる刃物のような言葉である。

それをたった数分の出演なのにも関わらず、劇場全体を呑み込むような迫真の演技を見せつけた豊川悦司はちょっと凄すぎる。

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庵野秀明の演じる岸辺野宗二郎。

個人的には彼の監督作品はどれも大ファンであり期待はしていたのだが、話題作りのためのキャスティング感は正直否めなかった(笑)。

しかし出演時間は少なく、さほど物語に深く関わる役どころではないので作品に大きく影響は与えない。

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岩井俊二監督の作品は初めて鑑賞したのだが、女優さんを美しく撮影するのが本当に上手に感じた。

それだけでなく、仙台の自然、田舎の街並みの風景、古い校舎での学校生活など様々な映像が全て美しく心に染みる。

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インターネット、SNSの普及により“手紙を送る”という行為により気持ちを伝えるという文化がどんどん廃れている現代。

そんな時代に敢えて手紙によるやりとりにより物語が進んでゆく脚本が素晴らしい。

これは岩井俊二監督が現代においても手紙というツールを利用した物語のアイディアを思いついたことから構想がスタートした作品だと語っている。

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高校時代に乙坂が愛する未咲のために書いた“答辞の言葉”は二十余年の歳月を経て乙坂の手元に戻る。そしてずっと前に進めずにいた彼の人生がやっとまた少しずつ動き出してゆく──。

個人的にはそのように捉えることができたラストであった。

本作はストーリー、演出、俳優の演技などどれも満足できる良い作品だと思う。

2020年最初に劇場に足を運んだタイトルが本作であって良かった。

今回は『ラストレター』の紹介でした。

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